京都スローフード協会・レンテッツァ「イタリアスペシャルレポート」
プレシーディオレポート
数多くのイベントが開催される中、「プレシーディオチーズ」が特に強調されていた。まず、プレシーディオチーズマーケットのイベントを機に、スローフード協会の「プレシーディオ活動」とはどういったものなのか、またどのような生産者がいるのかを紹介したい。
プレシーディオとは
97年6月にスローフード協会は「味の箱舟宣言」を発表した。それは、独自の特色をもつサラミ、チーズ、穀物、野菜、果物、地方の家畜という財産や、豊かで複雑な農家や職人の仕事、専門性と伝統的な技術からできあがった経済、社会、文化的な財産を、現代における画一化の波から守るためのプロジェクトである。「味の箱舟」は世界中の数百に及ぶ驚嘆すべき産品を列挙・文字化し広くそれらの存在を社会に訴えかけることに大きな貢献を果たしてきた。しかし、それだけで保存が完全だとは言えない。それらの食品に、現代の経済で生き残れる力をつける必要がある。決して伝統食品の博物館を作りたいわけではないのだ。
その為の具体的な行動として、99年「プレシーディオ」プロジェクトがスタートする。消滅しつつある伝統的で価値ある食品に経済的なインパクトを持たせること、それは「味の箱舟」プロジェクトよりもより具体的で現実的な活動だった。食品を取り巻く経済的環境は実に複雑であるため、その対処も実に多種多様。マーケティングやプロモーションコーディネートするのを助け、製品に価値基準を設けるといったアプローチが必要な場合もあれば、キッチン、オーブン、農場、ぼろぼろの小屋の壁を補修するといったことをしなければならない時もある。いずれにしても、生産技術を保存し、厳格な生産基準を設け、職人の作るものを促進させ、それらの食品が経済的に価値あるものであるようにするという目的は同じだ。
現在、イタリア国内におけるプレシーディオの指定は、ピエモンテ州の「ピエモンテ牛」やエミリア・ロマーニャ州の伝統の「モルタデッラ(ソーセージ)」、サルデーニャ州の「カジゾールチーズ」等、総数約200品目に上る。一方、世界におけるプレシーディオは、ヨーロッパをはじめとする約65品目で、原産国数はおおよそ32カ国に上る。
ロビオーラチーズ
プレシーディオに指定されているものの中に「ロッカヴェラーノのロビオーラチーズ」(イタリアピエモンテ州)というヤギの乳からできる伝統あるチーズがある。作り方はヤギから絞った乳を大きな入れ物に集め、天然の凝固剤と混ぜ一晩置く。そしてその後それぞれ個別の容器(小さな穴がある)に移し、表面に塩をかけ余分な水分を抜く。塩分により保存性を高め、水分を抜くことで味を凝縮させる。
実にシンプル。1週間ほどの若いものは、酸味と塩分がほどよく調和し、ヨーグルトのようなチーズとなり、数週間寝かせたものは、水分はほとんどなく非常に濃厚で強烈な個性をもったチーズとなる。共に、ヤギチーズの独特の臭さはさほど気にならない。これはピエモンテ料理やワインには欠かせない伝統的なチーズといえるだろう。
ところで、このチーズ、数年前までは消滅の危機に晒されていた。戦後、イタリア農業の方向性が大量生産と合理化に向き、ヤギのチーズは労苦が多いわりに報酬が少ないため省略手段が取られるようになった所以である。70年代になり、このチーズの生産ガイドラインが変わった。牛乳を85%まで加えても良いことになったのである。そこで、この状況を打開すべく、生産者たちは自ら生産者団体を設立したのだという。製品を一つに集め、熟成させ、販売し、包み紙には生産者の氏名をしっかり記入するようにした。本物とそうでないものとの差別化を図ったのだ。この結果、本物のロビオーラの値段は上昇し、危機を脱した。
現在、スローフード協会は、この流れを受け継ぐべく、生産ガイドラインに対してより特色をつけたいと願う生産者・飼育者を援助している。
生産者を訪ねる
このチーズ生産者の一人であるエンリコさんの農場は、急な坂道を幾重にも登った小高い丘の中腹にある。小さな農場と小屋があり、そこで数十のヤギを飼い、チーズを作っている。どさっと干草の詰まれた倉庫、ヤギたちの鳴き声、農場特有のアンモニアや排泄物の臭い、ピエモンテの丘陵を望む景色、そして、せっせと働くエンリコさん。ヤギのことからチーズの作り方まで色々説明はしてもらったが、彼の口から発する言葉以上に、彼と彼をとりまく環境がチーズそのものを現していたように思えてならない。
統括
今回開催された大規模なイベントは、非常に価値あるイベントといえるだけではなく、このイベントによって価値あるチーズが認知され、そして経済的に自立していくことに繋がっていく。と同時に、一般消費者でもある私達には、店頭に並べられた食品をしっかり見極めて購入することが求められている。しかし、ここで注意しなければいけないことは、私たちが購入して美味しく食すという行為は、「食」という一連のプロセスの一部分でしかないということである。
スローフードという考え方に共感した我々は、一般消費者よりも「食」に対するより深い理解が求められている。単に、「購入」と「消費」という部分だけに意識を働かせるだけではなく、それに関わる部分、つまり、生産から始まり、消費され、その後どういうことが起こるか、そういう全ての行為を一連の流れとしてよく考える必要がある。「どのような自然環境で、どのような人間が、どのような条件において生産しているのか、そしてどのようなルートでそれらが流れているのか」また、私達が購入し消費した後、その廃棄物はどうなるのか。環境破壊を考えない美食家はスローフードにとって全く意味をなさないように、私達は食に対する「想像力」を働かせていかなければならない。その為には、例えば、生産や流通、廃棄の現場を訪ねたりすることは価値ある行為といえる。
「食は一つのプロセス」であるということを深く認識し、自己満足に陥らない姿勢と広い視野が必要であるということを、つくづく感じさせられた今回の訪問であった。
参考資料
「cheese2005」公式パンフレット
「cheese2005」公式HP
http://www.cheese.slowfood.it
「国際スローフード協会」公式HP
http://www.slowfood.com
「slow food le ragioni del gusto」 (Carlo Petrini著)
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